追憶
デジカメデータ整理中に見つけた一枚の写真。_convert_20100209044519s.jpg)
カザフスタン・アラル近郊で出会ったドライバーが見せてくれたのがこのカード。
カードにはカートを引く男の姿が描かれていた。
数年前に、このオランダ人も同じ様にこの道を歩いたのだとか。
彼がどこから来てどこへ向かったのかは分からないけど、そんな事はどうでもよく、この道を彼も同じ様に歩いたのだという事が無性に嬉しく思えた。
酷暑、長い無人地帯、延々と悪路は続き、時には道が消えたりと、
その後、さらに過酷なものになったカザフスタンでの行程。
事ある毎に笑みを浮かべながら問いかけた。
「あんた本当にこの道を歩いたのか?」と。
「歩き抜いたのか?」と。_convert_20100209051757s.jpg)
彼がどういったルートを歩いたかは定かではないし、あの無人の荒野の中でニヤニヤしながら見知らぬオランダ人に問いかけるなど、どう考えても尋常ではなく、暑さに頭がやられたのではとも思えるのだが、今思うと、その存在にどこか支えられていた気がする。
己の足で歩き抜き、サポートしてくださった方々からの装備品に頼り、数え切れないくらいのカザフ人に助けられ、カザフスタン横断を終える事ができたのだけど、何度か心が折れそうになったあの環境下で笑みを浮かべる事により、若干の余裕を持つ事ができたのは確かなわけで。
別れ際、ドライバーに自分のカードを手渡した。
「ラフマット」と彼は言い、オランダ人のものと一緒に財布に入れた。
「あんた本当にこの道を歩いたのか?」
いつの日か、見知らぬ誰かから問いかけられる日が来るかもしれない。
療養日記
ここ数日、暖かい日が続き、雨も降り、
歩道からも雪が消え、歩きやすくなったと思ったのも一瞬の事で、
ほんの一時間前から降り始めた雪は、あっという間に街を白く染め、今尚振り続けている。
我が部屋から見る白く染まった街。
歩行中であれば、げんなり、うんざりするに違いない景色だけれど、療養中の今はぼーっと窓の外を眺めているだけ。時折、2週間前の吹雪の山中を思い出しながら。
現在は、テント生活、安ホステル暮らしから脱し、18階建てホテルの一室にて療養中。
退院後、チェックしておいた安ホステルへ行くつもりも、病院近くに位置し、通院に便利な2軒のホテルを勧められ、安い方に連泊値引きの交渉をしてチェックイン。
しかし、3,4週間と聞いていた通院はわずか1週間で終了。
通院が終わった今、もうこのホテルにいる理由はないのだけれど、「最低3週間滞在するから」と40%も値切っているので、出ていくことはできず。
もうしばらくブルジョワライフが続きます。なんだかんだで居心地はいいし。
あっ、ブルジョワなんて見栄張ってますが、1泊13ユーロです。
しかし何が苦痛って、暇で暇でしょうがない。
凍傷を負った指を冷たい外気にさらしたくなく、外出は極力控え(ドクター曰く「問題ない」らしいが)、スーパーへ出かける程度。残りの時間は部屋で過ごしている。
旅行者など皆無。
思えば10月初めにカザフスタンでオランダ人サイクリスト・コーエンと会って以来、4ヶ月もの間、旅行者とは会っていない。
誰とも話さず、朝から深夜まで部屋に篭ってひたすらネット。
完璧、引き篭りです。
ここにアップしてないネタもいくつかあるので、そういう作業をすればいいのだけど、面倒で。ほんと堕落してます。
機会があればまた。
※お見舞いメールありがとうございました。
凍傷
ヴァルナの朝食

ヴァルナで束の間の休足、一日は宿での朝食から始まる。
テント生活から解放され、雨風をしのげる建物に守られ、ゆっくりと休み、こうして落ち着いて朝食をとれるという事は本当にありがたく、幸せな事だなと思う。
カザフスタンでの日々は、常にない事が前提で、
たまに現れる小さな町や村、品数乏しい商店で食料を確保する度に安堵し、
現地の方から貴重な水を分けていただく度に、心から感謝していたのだけど、
今となってはそんなシチュエーションなど皆無。
どこにでも商店があって好きなものを好きなだけ買う事ができて、
これじゃなく、あれがほしいなと思えば、別の店に行けば解決し、
蛇口をひねれば、水が出てきて、お湯も出てきて、
ぼくは次第にそんな環境に順応していって、
いつの間にかそんな環境が当たり前になりつつあるのだけど、
何不自由なく暮らせるというのは、それはそれで幸せな事だとは思うのだけど、
あのカザフスタンでの日々は忘れたくない。
些細な事であっても、感謝し、幸せを感じていたい。
カザフスタンでの日々は過酷なものであったけど、人との出会いなんかはもちろん、あの時の感情や思考、経験っていうのは本当に大きな財産になった。
そんな事を振り返り、感謝しながらの朝食。

<写真>
黒海。
夏場は多くの旅行者で賑わうであろう海沿いも、オフシーズンの今は閑散。




<写真>
休足日につき、昼間からチキンとビール。
また明日から頑張るので、いいのです。許されるのです。
Varna
躊躇というのか、あるいは億劫なだけなのか、自分では後者の占める比率がかなり高いと思っているのだけど、パラパラと小雨が降り始め、レインウェアを着用しようかと一瞬考えるも、大雨というわけでもないパラパラとした雨だし、わざわざバックパックからレインウェアを取り出して、靴を脱いでパンツを穿くのは面倒で億劫だし、レインウェアを着た途端雨が止んだら何となくむかつくし、まあええわと思い、歩き続けると、いつの間にかこの小雨がボディブローの様に効いていて全身ずぶ濡れなんて事がこれまで何度かあったりする。
で、そんなずぶ濡れになった状況で、例え雨が強くなったとしても、今更レインウェアを着用するのは悔しくて、とても悔しくて、大雨だろうが、雪に変わろうが、氷点下の中だろうが、そのまま歩き続ける。
今回も氷点下、雨は雪へと変わり、その中をずぶ濡れになって6時間も歩き続け、寒さに震えながらヴァルナに到着。
毎度毎度思うのですが、学習能力ゼロです。
そんな風に到着したこのヴァルナっていう街、オデッサ滞在時、今後のルートを考える際に浮上し、ルートに加えるか迷った街だったりする。
何が魅力って、温暖な気候。ここはブルガリアを代表する保養地なのだ。
オデッサで氷点下の寒さに震えていた時、このヴァルナの気温を調べてみると、それは本当に暖かそうな街で、今回もソフィアとヴァルナ、どちらへ向かうか迷ったものの、温暖な気候を求め、ヴァルナへやって来たのだった。
しかし、
しかし、ヴァルナよ。
これはちょっとやり過ぎじゃないのか?
温暖な気候を求め、はるばる歩いてきた者に対し、ちょっと酷過ぎやしないか?

昨日からの雪は街をを真っ白に染め、温暖な気候どころか氷点下。
今日も一日中吹雪、両替をしに外出したのみ。
今後もしばらく氷点下な日々が続くようで。
夏季は多くの旅行者で賑わうこの街だが、冬季はクローズする宿が多いらしい。
わざわざこの寒い時期に保養地を訪れる旅行者もおらず、宿は閑古鳥が鳴いている。
現在滞在中のホステル、スタッフが3人もいるのに、宿泊客は1人だけ。
それはそれで非常に快適ではある。
部屋もシングル状態だし、オフシーズン料金だし。
早速、「安くするから春までいなよ」と声を掛けられるも、とりあえずは歩行を続けるつもりでいる。
もう少し雪の状況を見ながら、色々な事を判断しようかなと。

昨夕、宿に到着後、ごちそうになったブルガリア料理。
絶好調

ラテン=陽気、スラブ=陰湿
なんとなくこんなイメージを持っていたものの、
ラテン系のルーマニアからスラブ系のブルガリアへと変わり、
ほとんど話しかけられる事のなかったルーマニアから一転、
連日声をかけられるようになった。
「お金は要らないから乗っていきなさい」
久々に同乗のお誘いをいただいたり。
励ましの言葉をかけていただいたり。
商店なんかでも、立ち寄る度に色々と尋ねられたり。
なかなか楽しい国ではないか、ブルガリア。
いつも思うんだけど、こういった出会いって確実に前へ進む活力になっている。
そんなブルガリアでの歩行。

上っては下り、また上り、
幾度となくアップダウンを繰り返す。
勾配自体はそれ程でもないのだけど、アップダウンの連続にやや疲労を感じる。
しかし、おかしな話、この疲労が心地良くて。
山を一つ越える度に小さな達成感を感じ、それを何度か繰り返す。
ルーマニアでは平坦な道が続いたからか、この山道がものすごく新鮮に感じられる。
景色も悪くないし、ロシアやウクライナの歩行より楽しいとも思う。
ブルガリアに入り、ようやくマドルガピークも足に馴染み始め、久々の50キロ超え。
心身ともに絶好調。
今、とても楽しんでいる。




BORDER
これまで何度も経験しているのだけれど、
国境を越える時の心境というのは、妙な緊張感や不安、大好きな国を去る時は寂しさを感じるし、次の国への期待、興奮など、色々なものがごちゃ混ぜになり、何とも表現が難しい。
でもまあ、国境越えって好きです。
新たな国への越境っていうのは旅の醍醐味の一つだと思うし、
周りに接する国のない島国育ちな故か、国境越えっていう行為は特別なものに思えてしまって。
ルーマニアからブルガリアへの道。
いくつかの越境ポイントがあるのだけど、最短でルーマニアを抜けるポイントを選択。
しかし、手元の資料によると、
「ブルガリアとの間に橋はあるが、徒歩での通行は認められていない」
なんていう厄介な記述。
無難に他の越境ポイントへ向かうか、でもさっさとルーマニアを出てしまいたいし・・・。
色々と考えた結果、
とりあえず行くだけ行ってみようと、なんとかなるだろうと、
国境の町Giurgiuに着いたのはブカレスト出発2日目のこと。
対岸はブルガリア。
ちなみにこの川はドナウ川。
名前くらいは聞いた事があるでしょう。
ルーマニア・ブルガリア間の国境線の役目も果たして、川沿いに越境ポイントがいくつかある。
以前ブカレストからイスタンブール行きバスに乗り、ブルガリアへ抜けた際は、バスごと船に乗り、対岸のブルガリアへ渡った記憶がある。
この国境のドナウ川に架かる橋は数年前にできたのだとか。
そして、いつも以上の不安と緊張感を持って臨んだ国境越え。
なんとかなるものですね。
渡れちゃいました。
狭い車道を歩くので、対向車がある場合は、後続の車に迷惑をかけてしまいましたが。
ドナウ川を眺めながら歩いていると、
橋の真ん中辺りに現れた「BULGARIA」という文字。
ここからがブルガリアらしい。
「ふぅ」と一呼吸おいて、一歩踏み出した。
日々積み重ねている一歩とはまた違う一歩。
8カ国目ブルガリアへ入国。
振り返ればルーマニア。
さようなら。




