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ALKINIST -あるきにすと- 2009年03月
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甘粛省永昌 

氷点下の銀世界。
標高3000メートルの山。
そしてその翌日から続く荒野。

日替わりで目まぐるしく変化した景色も武威辺りから荒野に落ち着いている。

寒い寒い冬から春を通り越して一気に夏へ。
容赦なく照りつける陽射し。
午前中のうちから半袖1枚になる毎日。暑い。

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空が青いです。


昼食時に地図を眺めていると、この先に町がない事に今更ながら気付く。
張掖までの3,4日をテントにて過ごす事になるのだが。

危ない危ない、もう明日からテント生活じゃないですか。

レトルト食品に米、燃料ボトルにガソリンは入っているも、肝心の水がない。
その他携帯食一切ない。
必要なものを買い揃える。

食パン×2 12元
梨×5 5.5元
水×10 6元

水を買うのは合肥以来2ヶ月振り。
計5Lちょっと。
その他ポリタンクに水道水を入れる。



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<写真>
武威郊外でこの旅初の野宿。
極度の疲労からテントを張る気力なく、マットとシュラフのみ。

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<写真>
蘭州で食べたナン。
焼きたてはうまい。

青空 

「運転手さん そのバスに 僕も乗っけてくれないか」


次々に通り過ぎていくバスを見ながら、そんな歌詞を思い出す。
さすがにバスを止めはしないが、気分はまさにそんな状態。

恐らくは前夜に食べたパン、あるいは麺。
見事に当たってしまったようだ。
就寝中、突如襲われた物凄い嘔吐感。
何とか耐えるも、迎えた朝は体調不良、絶不調。

体に力が入らず、足が重い。
行ける所まで行ってみようと歩き始めるも、
こんな日に限って待ち構えていたのは標高3000メートルの山越え。

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嘔吐しながら越える山。

前へと踏み出す一歩がとても重い。
一歩一歩どころか半歩半歩の繰り返し。
心なしか酸素の量も減っているように思える。

息苦しい、きついし、つらい。


「こんな旅やめてしまいたい」


一瞬頭を過ぎる。

耐え切れず道脇に寝転がり、空を見上げれば青空だった。
雲一つない、まぶしいほどの青空。
標高3000メートルにもなると、空が物凄く近く感じられ、手が届きそうにも思える。

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最高地点に建てられた標高3030メートルの看板。

その看板を目にした時、感じたのは安堵感。
もう上らなくてもいいんだという安堵感。
それだけ。

上り終えた安堵感に、そこから見た青空。
あれ程足を止めたいと思っていたのに、また前へと進む意欲が沸いてきた。

不思議なものです。

終わらない冬 

最後の一暴れといったところか。

一夜にして銀世界に。
道理でなかなかベッドから起きることが出来なかったわけだ。

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氷点下。
気が付けば、リヤカーの持ち手と手袋が引っ付いていた。
素手だったら痛い事になっていただろう。
次の冬までに対策を考えないと。

甘粛省紅城 

いつしか雪は勢いを増し、あっという間に周囲を白く染めた。

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牛やロバを使い、畑を耕している光景を見て、春の訪れを感じたのが数日前の事。
蘭州でも日中の気温は15℃と暖かく、朝夕の寒さも和らいでいた。

春の訪れを感じつつ、振り返った冬。
暖かくなったのをいい事に、寧夏での吹雪を懐かしく思い、去りゆく冬にほんの少しの寂しさを感じていたら、またまた雪に降られる始末。

「春はまだだけんね」

と言わんばかりに勢いを増す雪を前に、冬が終わる事をほんの少し寂しく思ってしまった事がアホらしく思えてしまう。

寧夏の雪は美しい結晶で、厳しい環境下にいたにも関わらず、ジャケットの袖口に付いた雪の結晶に一瞬見とれてしまう程でもあった。
今回の雪は憎たらしいボタン雪。
強い向かい風と共に襲ってくるのだから、尚更憎たらしく思えてしまう。

勾配、寒さ共に、あの山の経験と比べる程でもないが、やはり冷たい雪の中を歩くのは寒いもので。
昼前に町に到着し、昼食。
出てきた牛肉拉麺を両手で覆い、かじかんだ指先の感覚を戻す。
感覚の戻った指でうまく箸を使い、麺をすすった。

ふと外を見てみると、雪舞う中、主の帰りをじっと待つリヤカーの姿。

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なんだか申し訳なく思ってしまう。

「お待たせ」
とリヤカーの元へ戻り、雪舞う道を進んだ。


そして到着した甘粛省紅城。

町に一軒の宿に行くも、

「没有」

もう聞き飽きた言葉。

町に一軒しかない宿に空部屋がないのは困る。
外は雪、5キロ先にも町はあるが、そこにも宿はないらしい。

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何とか毛沢東が掲げられた一室にありつく事ができたけど、ここは宿主一家の部屋。

3人並んで寝られる程の大きなベッドがあるが、彼らと川の字なのだろうか。

蘭州 

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目の前を流れる河を見ながら思い出す。

そう言えば中学の社会で最初に習ったのが四大文明についてだったな、と。
まさかこんな形で黄河を目にする事になるとは、10数年前の自分も全く考えてなかっただろう。

「のんびりと黄河を眺めるのも悪くない」

と、無理矢理、理由をこじつけて、蘭州では2日程休む予定。
西安から17日。
その大半を山との格闘に費やし、やや疲れ気味なので。


コーヒーが切れてしまったので購入する。65.8元。
200グラムのインスタントコーヒーが約900円と日本より割高。
物価の安い中国で買うのだから尚更高く感じてしまう。

コーヒーを断つ事も一瞬考えたが、コーヒーなき生活は考えられないので渋々購入。
歩き終えた後のコーヒータイムは至福の時なので。
スプーンに山盛りの濃い目のコーヒーを毎日3杯程飲んでいたが、今後は1杯のコーヒーをありがたく飲むことにしようか。

寧夏回族自治区 

標高2300メートル。

足を止める度に高度を確認する。
腕時計の温度計で気温を測ってみれば0℃を表示。
体温が含まれての温度なだけに実際はどこまで下がっているのか分からないが、氷点下の中にいることだけは確かな様。

標高が上がるにつれ、雪は勢いを増し、吹雪となった。

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50キロ近い荷物をリヤカーに載せ、白い息を吐きながら、雪舞う山道を進んだ。

疲労を感じ、足を止め、しゃがみ込む。
本当はどこかに腰を下ろしたいのだが、勾配がきつく、手を離せばリヤカーがずるずると後退してしまう。
しっかりと両手で支え、その場にしゃがみ込むしかない。

歩行中こそ体内の熱が上がり、額から汗が流れ落ち、体は汗ばむも、一旦足を止めれば、一気に体が冷えてしまう。
体から湯気が上がり、鼻水を垂らし、汗と雪の混じった髪は凍りつきパリパリ、携帯している水も氷と化す。
手袋を外せばすぐに指先の感覚が鈍くなる。

勾配のきつい山道、氷点下、吹雪と見事に揃った悪条件。
足が重く、足を止める頻度が増した。
時には100メートル歩いただけで足が止まってしまう。

「中国の名も知らぬ雪山で何をやっているんだろう」と、
「お前はアホか」と、自分を罵る。

何もかもを投げ出し、現実逃避したくもなる。
その度に、ゆっくりでいいから、時間がかかってもいいから、一歩一歩歩こうと自分に言い聞かせた。

歩いては止まる、そんな事を何度も繰り返した。

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疲労、寒さに加え第三の苦痛、空腹。

きついし、寒いし、腹減ったしで、三重苦。最悪な状況。
こんな山道があるとは知らず、朝食はコーヒーとビスケットを数枚食べただけ。
携帯している食料はレトルト食品のみ、こんな所で食べれるものはない。

「これでも食って頑張れ」とでも言ってくれたのだろうか。
大きな声と共にトラックから梨が投げられた。
あっという間に通り過ぎていったトラックの後姿を見ながら「謝謝」と呟く事しかできず。

吹雪の中、ものすごい形相で梨をかじる姿は異様だったに違いない。
横を通り過ぎていくバスやトラックからはどう映っていたのだろうか。
しかしながら、この梨には本当に救われた。


寧夏回族自治区を通り抜けた3日間。
山、氷点下、吹雪、空腹・・・
わずか3日ではあるけれど、思い出しただけで身震いしてしまうような強烈な印象を残してくれた。


しかし中国で吹雪の雪山を歩く事になるとは全くの予定外でした。