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ALKINIST -あるきにすと- 2012年04月

無人地帯と雨 

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オパールの採掘で有名なCoober Pedy周辺はこの様に地面が掘られ、土が積み上げられている。
そんな景色を見ながらCoober Pedyを出発し、迎えた翌日。
いつもの様に日の出前から歩行を開始した。

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徐々に明るくなっていく空。そして現れた虹。

前日夕方から雲が多く、嫌な天気だなとは思っていたけど、前方の空では雨が降っていたのかと思い、もう雨が上がったのだろうと1度は安堵したのだけど、

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やはり嫌な空模様。

アデレードを出てから約20日。曇ったのはわずか1日。
いつも青空の下、強い陽射しを浴びながら歩き、あまりの暑さに「雲よ出ろ、雲よ出ろ」と思いながら歩く事もあったけど、いざこうして空が雲に覆われれば、勝手なもので「晴れろ、晴れろ」と唱えてしまう。
自分が望んでいるのはこんなどんよりとした雲ではなくて、さわやかな青空と入道雲のような力強い雲なのである。

そんな事を思いながら歩いていると、前方からやって来たバイクが止まった。
オーストラリア人との事で、少なくとも自分よりはこの辺りの天気についての知識もあるだろうと思い、彼にこの先の天気について尋ねてみると、「南は雨が降るけど、ここから北は問題ない」とライダー。

しかし自分の目にはむしろ南より北の空の方がどんよりしたものに見えた。



無人地帯と雨。

ウイグルとカザフスタンで経験済みなのでこの怖さは十分に分かっている。
ウイグルで雨に見舞われた時は幸いにも道路下に雨をしのげる通路があり、そこに逃げ込んだけど、カザフスタンでは周囲に人工のものなど一切なく、ただ雨に打たれるしかなかった。
どうする事もできず雨に打たれ続けた後、すぐにテントを張り、濡れた衣類を着替えたが、この雨で風邪をひき、その後数日は体に力が入らず、その後辿り着いた町で尻に注射を打たれた。



ライダーの天気情報は話半分に聞いておいて、とりあえず先を目指した。
雨に降られないうちに屋根のある所まで行き、その後の事は改めて考えようと思った。
ここもまたカザフスタンと同様に延々と何もないけど、ここから10キロも歩けばレストエリアがある事は分かっていた。多分そこには屋根があるはず。
そこを逃せば次のロードハウスまでまた100キロ近く何もないという環境だった。

レストエリアに着く前にパラパラと雨が降り始めた。
強い雨ではない、パラパラという程度ではあるけど、足早に進んだ。


なんとかレストエリアに辿り着き、空の様子を見ながら屋根下で昼食をとったものの、相変わらずパラパラという雨が空から降り続けていた。

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この程度なら何とか歩けるというくらいの雨。
しかしこの雨がどう変化するのか全く予測できず、半日で歩行を終え、屋根下にテントという無難な選択をした。


降ったり止んだり、時折強く降りながら、その後雨は3時間で止んだ。
結局は歩こうと思えば歩く事のできた雨だった。
しかし後から何を言っても全て仮定の話でしかなく、さらに強く、長時間降り続けていたかもしれないし、落雷があったかもしれない。
こういう状況下での判断は難しいけど、やはり無難な選択をするべきなのだと改めて思う。

自然はいつも学ばせてくれる。

ハエがすごい 

現在ぼくを悩ませているものは暑さでも肉体の疲労でも心細さでもなく、ハエ。


ハエがすごい。


この6文字だけじゃ全然伝わらないので、以下何枚か写真。

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ポートオーガスタまでは全く問題なかったけど、スチュアートハイウェイを歩き始め、内陸へ進むにつれ、大量のハエが現れ、どんどんひどくなっている。

当初は歩行開始から2時間程経った頃にゆっくりと現れたハエ。
最近では歩行開始時から数匹が周囲を飛び交い、その後すぐにたくさんのハエが集うようになった。

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Glendamboの入口の看板。
人間の人口はわずか30人なのに対し、羊22500頭、ハエ200万。

長い無人地帯。
町はなくても、家はなくても、人はいなくても、ハエはたくさん。

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昼食をとろうと缶詰の蓋を開ければ、ハエもランチタイム。

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少しでも側面にこぼしてしまえばこの通り。

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食後。

缶詰だけならまだしも、目とか耳とか鼻とか口とか、とにかく色々な所に侵入してくる。
鼻の中に入り込んだハエをフンッと鼻水と一緒に噴射し、口の中に入り込んだハエをペッと吐き出すなんて事も少なくはない。
顔の周りを朝から晩まで何時間もたかられるのは非常にうざい。

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ギリギリまで耐えたけど、もう我慢ならんという事でこいつを装着。
これさえあればうざいハエのストレスから解放される。
視界は多少悪くなるけど、選択の余地なし。


カナダの森で蚊に悩まされ、ウィニペグで購入したネット。
しかしその後草原へと変わり、ロッキーを歩く頃は夏の終わりから秋だったので、結局全く使わないままだった。
持ってるけど役に立たないグッズランキング上位にいたけど、今では持ってて良かったグッズでダントツナンバーワン。
途中で破棄しなくて良かった。持ってて良かったと心底思う。

Coober Pedy 

終わりが見えた250キロの無人地帯。
前夜はCoober Pedyまで34キロ地点にテント。
歩けば7時間、13時頃にも到着できるはず。
しかし長かった無人地帯からの解放を前に気持ちは昂り、少しでも早く町へ着きたかった。
朝4時、暗闇の中ライトを頼りにテントを片付け、いつもより2時間も早く歩き始めた。


夜間とか未明とか、こんな時間に歩くのは過去に2度。
補給箇所は数箇所あったけど、350キロもの無人地帯が続いた新彊ウイグル自治区。
ハミが目前に迫った夜。興奮のせいか眠る事ができず、数時間休んだ後、深夜1時から歩き始めた。
さらには寒い12月、オタワからトロントを目指していた時。
いずれも今回同様、目的地に早く着きたいという強い気持ちがあった。

そして3度目の今回。
車が来る時以外はあえてライトを点けずに歩いた。
闇の中であっても路側帯、道路中央の白線は浮かび上がり、歩くのには問題なし。
時折通過する車のヘッドライトを除けば、周囲に光はなく、空を見上げれば満天の星空。
この環境はとても贅沢なもので、わざわざ光を発するなんて愚かな事だと思った。
景色も見えず、退屈かなと思っていたけど、そんな事は杞憂に終わり、空を見上げ、何度も落ちていく流れ星を目で追った。

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予定通り7時間でCoober Pedyに到着。
ここはオパールの採掘で有名な町というのは知っていたけど、今尚掘られ続けているとは知らなかった。
遠い昔の話だとばかり思っていたのだが、道脇には採掘の際に積み上げられた土、重機が並ぶ。

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前日から何度かこんな看板が現れていたけど、納得。

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250キロの無人地帯の先に現れた小さな町。
ポートオーガスタ以来500キロ振りに現れた町だった。
終わった、終わった、終わった。長かった250キロが終わった。
喜び以外の感情はなかった。

町に入り、まず最初に感動したのが規則的な間隔で並ぶ街灯。
文明社会に戻ってきたと思った。
長く、過酷だったカザフスタンを歩き抜き、ロシア・アストラハンに到着した時もオレンジ色の光を灯す街灯にすごく感動した事を思い出した。

町の規模としては決して大きくはないけど、スーパーマーケット、リカーストア、宿もあり、無人地帯の中にあるオアシスだった。
実際ポートオーガスタからの500キロ、さらにこの先アリス・スプリングスまでの700キロ、この規模の町は存在しない。間違いなくオアシスなのである。


久々の町に興奮しながら宿へ向かい歩いていると異様な光景、雰囲気があった。
建物の陰に座り込んだ数人のアボリジニ。時には酔いつぶれたかのように横たわり、ハエがたかろうが全く気にしていない様子。
そんなアボリジニが少なくなかった。

ここまでアボリジニと接する事はなくて、ポートオーガスタで少し見かけたくらいだったのだけど、「なんなんだこいつら」というのが最初の印象だった。

「アボリジニに気を付けろ」
メルボルンから歩き始めた時にかけられた言葉を思い出した。
この町で目にしたアボリジニは普通ではなかった。
もちろんスーパーなどでしっかりと労働しているアボリジニもいるんだけど、自分の目にそう映ったのも確か。
注意するに越した事はない。

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現在はこの町の目玉の一つである鉱山跡を利用した宿に滞在中。
地下へと進んでいけば、薄暗い廊下が伸びていて、その脇に洞窟の様な部屋がいくつもある。この名物宿でアデレード出発以来初めてシャワーを浴び、ビールを飲み、がっつり食べる。
当初は1泊だけのつもりだったけど、写真のデータ整理や2週間分の洗濯など、意外とやるべき事は多かったし、何より少し疲れていたので延泊。昨日と合わせ1日半を休養に充てた。

当面の食料も揃えたし、また明日から無人地帯へと戻る。

250キロの空白 

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スチュアートハイウェイを歩き始め、173キロ、113キロと無補給区間を順調に消化。
そして最初のヤマ場と考えていた253キロにも及ぶ無補給区間を迎えた。
始点のGlendamboに到着したのが4日前。

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113キロを歩き抜いてきたので、冷たいビールを飲んで己を労わり、Coober Pedyへ向かうための準備。
ここで5日分の水を得るつもりでいたけど、この町の水は飲めないという大誤算。
その場で今後携帯する飲料を計算し直し、ミネラルウォーターなどを購入した。

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250キロの無人地帯。
250キロの空白。

延々と似たような景色が続いて。
延々と地平線が広がっていて。
そしてまた延々と同じ様な日々を繰り返す。

町もない。家もない。人もいない。
過去に誰かが住んでいた形跡すらない。
何もない。

明日の事、明後日の事、さらに翌日の事。
何度も先の事を考えてみたけど、250キロとか5日とか、とにかく長くて遠過ぎて、とりあえずは今日の事、目の前の一歩の事だけを考えようと切り替えた。

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無人地帯ではあるけれど、豪州の北と南とを結ぶ主要道路なので、交通量はそこそこ。
対向車とすれ違う際は手を振られたり、指を1本立てたり、クラクションを鳴らされたり。
あるいは車が停車して「水はあるか?」と声をかけられる事も何度か。

こちらの方は道脇でぬるいコーラを飲んでいたところ、ペットボトルを渡してくれた。
なんと半分以上が凍った状態の水。
冷水をあっという間に飲み干した後は、ぬるい水を氷の中に入れて冷やし、その後また冷水を飲むという事を何度か繰り返した。

長い無人地帯にいれば妙な不安に襲われる。
それは海で泳いでいて、浜が少しずつ離れていく時に感じる不安に近いものがあった。
有人地帯から離れていく不安。水を補給できない事から生じる不安。

ドライバーとすれ違う際に一瞬ではあるけど交わされるコミュニケーションは、唯一自分が外部とつながっている事を意味し、安らぎ、落ち着きを与えてくれた。

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とまあこんな感じで5日間、250キロの空白を歩き続け、Coober Pedyに到着。

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町の外れで振り返ってみれば、過去に立ち寄った所への距離標識。
けっこう遠くまで来たなあ。

Port Augusta 

アデレードから離れれば離れる程、かつての日常、感覚などを取り戻していった。
テントを設営後、まず何をテントに入れて、それをどこに置くかなど。
そんな些細な事から毎日の歩行ペース、およそ4ヶ月足を止めていたとは言え、それらを取り戻すのには大して時間はかからなかった。

アデレードから歩くこと6日目、ポートオーガスタに到着。
ここから砂漠地帯に突入。長い長い無人地帯を歩く事になる。
スチュワートハイウェイの写真を見た瞬間、その景色に魅せられ、歩く事を決意したのが1年前。
北米を横断して、アデレードで夏を越して、ようやく砂漠地帯の入口に到着。

とりあえずこれから173キロの無補給区間、さらにはその後113キロ、253キロ・・・、と無補給区間が続き、ここから1200キロ先にウルル。当面はこのウルルを目指して歩く。
250キロ超の無補給区間はカザフスタンでもカナダでも経験していないけど、舗装路だし、交通量も少なくはないのでカザフスタンよりは楽だろうと思っている。

唯一不安があるとすれば、ストーブの故障。
ポンピングできなくなり、火力が安定しない現状。
アデレードへ戻る事もしないし、今は日本から取り寄せる事もせず、このまま砂漠地帯へ向かう予定。
ストーブの不調は困るといえば困るけど、これまで見舞われてきたタイヤや車輪トラブルと比べたら致命的というわけでもないので。まあ何とかなるでしょう。

Gawler 

4ヶ月超もお世話になったロブ・ダイアンに別れを告げ、歩行再開をしたのが昨日。
歩行再開初日はアデレードまでの7キロを歩いただけ。

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そして今朝より本格的に歩行を再開。
豪州北端、さらには上海へと至る長い長い旅の再開。
ここから上海まで最長で1万6千キロを歩く予定。
上海からリスボンまで歩いたユーラシア大陸横断と同距離の1万6千キロ。
あの時はリスボンなんか遥か先で、色々と不安もあり、歩けるか不確かであったけれど、今朝、同じ1万6千キロを目の前にしてみれば、はっきと上海をイメージする事ができた。
ここまで23500キロを歩いたという経験ももちろん大きいけど、結局は目の前の一歩一歩を刻む、それだけ。
ぼくは特に体力的に優れているわけでも、特別な人間でもなく、本当に一歩一歩を繰り返してきただけ。
そしてこれからも同じ様にすれば、必ず上海へ至るはず。自信でなくて確信です。

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街から離れれば離れる程、交通量は減少、大きな建物も姿を消し、そのうち建物自体なくなった。
アデレードに限らず、大きな街を抜けた時は心底安らぐ。
人がいなくなれば歩道もなくなる。路肩があればいいけど、路肩がない事もしばしば。
雨に打たれ、きつい日差しに照らされ、約40キロ歩いてGawlerという町におります。