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ALKINIST -あるきにすと- 事件です

事件です 

目を覚まし、周囲を見回せばいつもと違う風景。
ああそうだ、昨日出会ったウクライナ人の家にお世話になっているのだ。
やや寝惚け気味ではあるけれど現状を把握。


起床後、タバコを吸おうと、ソファ下に置いたバッグを手に取ろうとするも、そこにあるはずのバッグはなかった。

誤って踏まないようにと家主がどこかへ置いてくれたのだろう、
そんな事を考え、トイレへ行くため、部屋を出た。

ドアを開け、真っ先に目に飛び込んできたものは、PCなどを入れているバックパック。
屋外の椅子の上に無造作に置かれていた。


なぜ、こんな所に???


起床直後、うまく頭は働かない。

とりあえず、バックパックを手に取ってみると、中は空っぽ。
PCやHDD、電子機器類は消え、キシリトールガムとのど飴、ノート類が残っているくらい。


ようやく自分の置かれている状況を理解する事ができた。

盗まれたのだ。
同様にソファ下に置いたタバコが入ってるはずのカメラバッグも、家主の配慮とかそういう事でなく、誰かに持ち去られたのだと。

同部屋で眠っている家主夫婦を叩き起こし、事情を説明。
警察に連絡してもらい、その間、昨夜この家を訪れた何人かの人達もやって来た。


日本人がこの家を訪れている事を知っているのはごくわずかな人だけ。
そして見事なまでにその日本人の荷物だけが持ち去られたという状況。
犯人は、自分を含め3人が眠っている室内にまで侵入し、そこに置かれていたカメラ・PCといった貴重品を持ち去っている。
この家の勝手を知っている人間じゃなきゃできない芸当ではなかろうか。

だいたい、前夜にしても、
「もういらんから」と言ってるにも関わらず、しつこくワインを勧められたり、
疑っていけばキリがない。


「犯人はこの中にいる」


名探偵コナン風にそんな事を思った。


さらには、このウクライナ人達。
犯人の指紋が残っているかもしれない残された品々をベタベタと触り、動かし、
この家の奥さんは警察が来るからか、室内に侵入した犯人の足跡が残ってるかも知れないのに、ホウキを片手に掃き掃除を始め、
雪に残った足跡を探そうとしているおっさん連中は、逆に自分の足跡を雪上に残したり、
メチャクチャな方々でした。
さりげなく証拠隠滅しているのではなかろうかと、そんな事を思ってしまうくらいに。

盗難被害はカメラ、PCといった貴重品だけでなく、シャツ、レインウェア、ダウンジャケットなどなど、数え切れないくらいのもの。
中国で買ったスリッパ、穴の開いたソックスまでもが持ち去られていた。

テント、シュラフ、ストーブといったアウトドア用品には手をつけられていなかった事が救い。
とりあえずは歩き続ける事ができる。

絶望の中に見えた光だった。


えらい時間がかかってようやく警察が到着。
パトカーでなく、緑色のぼろいロシアンカー。

こいつら本当に警察なんだろうか?
皆がグルになって、コスプレ警官でも準備したのではなかろうか?
疑心暗鬼になってしまう。

パスポートチェックと家主からの簡単な事情説明の後、去っていった警察。
この国の警察に期待するのはやめよう。
荷物が戻ってくる事はないだろう。
なんとなくそんな事を思った。


警察が戻ってきたのは、それから1時間程経っての事。
「ヤポーニャ」と呼ばれ、「ゴー トゥ ポリスオフィス」と、ぼろいロシアンカーに乗車しろと。

どうせ、よく分からない書類にサインさせられ、盗難事件はウヤムヤにされるのだろう、
そんな事を思いながら乗車する。
ふと、足元に目をやると、見覚えのあるものが、飛び込んできた。

ロウソク。

まず目に入ったのは、ウイグル自治区でカザフ人にお裾分けして以来、全く出番のなかったロウソクの入った箱。
さらに車内を見てみれば、見覚えのある品々が多数。

「えっ、これって・・・」

思わず声を上げれば、

「そうだ、お前のものだ」と警察。

警察には全く期待していなかっただけに、予想だにしなかった展開。

ウクライナ警察の皆さん、ありがとうございます。
期待するのはやめようなんて思ってごめんなさい。


ただ、不満を一つ言わせていただくと、

犯人と被害者を同乗させないでください。
頭に血が昇った被害者が犯人に襲い掛かる可能性は高いと思われます。

一通り車内を見渡した後、
後部座席、警官を間に挟んで、見覚えのある男が座っている事に気付いた。
前日、家にリヤカーを運び入れるのを手伝ってくれた少年。

警察曰く「奴はジプシー」らしいのだけど、奴が犯人と分かるや否や、「テメー」と襲い掛かっておりました。
間に座った警官、助手席の警官のガードが固く、顔をわし掴みにしたくらいで、
その後も何度か隙を見て、襲い掛かろうとしたものの、やはりガードが固く、逆に警官から殴られるので、あきらめましたが。

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タタンブラリの警察署に着き、通訳を介しての状況説明、事情聴取。

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そしてジプシー宅から押収された品々との再会。

後になって分かった事だけど、戻って来なかったものもいくつかある。
エネループ1本、スパナ、ペンチ、穴の開いたソックス全部などなど。
失って痛いと思うものもあるのだが、ジプシー宅で押収してきた警官は「これで全てだ」と。
これ以上警察の手を煩わせたくなく、それらについてはあきらめる事にした。


事件の起こった村から警察署のあるタタンブラリへは約10キロ。

「歩くことは勧めない」

警察車両にリヤカーなどを積み、タタンブラリへ戻る事を勧められるも、
これに関しては、譲る事ができず、無理を言って歩かせていただく。

なんだかんだでここまで1年かけて1万キロ歩いてきて、今更車なんかに乗れるかって事です。


その後、2日に渡っての書類作成。
今回の事件は、今後、警察養成課程での教材に使われるのだとか。


全ての手続きを終え、歩行を再開したのが12月30日昼頃。
リヤカーに荷物を積みながら、気付いた事が一つ。

ソーセージ、チーズ、チョコクリームまで盗まれておりました。


ジプシーよ、普通ここまでやるか?



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<写真>
この二人には色々とお世話になった。
女性の方は通訳。

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<写真>
ジプシーを捕まえた警官。

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<写真>
書類作成の人。
他の旅行者にも注意喚起しとけと言われたけど、旅行者と会わないので、ここに書いとく。
「日本ノ皆サン、コンニチハ。ウクライナノジプシーニハ注意シテクダサイ」

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<写真>
「ジプシーの部屋」 撮影者・ジプシー
左端には盗まれたPCも写っている。