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ALKINIST -あるきにすと- 運

運 

「運がいいよ」

ある方からそんなメールを頂いた。


2月いっぱいをグータラ過ごそうと越冬地へ向かっている途中、トルコまであと100キロに迫ったところで、60数年振りの寒波に襲われ、凍傷を負い、病院送りにされた挙句、グータラ生活どころか入院・療養生活を送る羽目になったぼくに「運がいいよ」と。

実を言うと、今回、凍傷を負う以前から、「運」について考えていた。
ブカレスト出発前、コーヒーを飲みながら、色々と考えたばかりだった。

とにかくひどいのだ。


ロシアで羊飼いに襲われ、
ウクライナでジプシーに荷物を盗まれ、
モルドバ、ルーマニアでもちょこちょこトラブルに見舞われ、
欧州入り後、トラブルが続いている。

アジアが順調過ぎたとは言え、運に見放されている気がしていた。


そこへ今回の凍傷が加わる。


ロシアで羊飼いに襲われ、
ウクライナでジプシーに荷物を盗まれ、
モルドバ、ルーマニアでもちょこちょこトラブルに見舞われ、
ブルガリアで凍傷を負う。


凄まじい。

越冬地へ向かっている途中に寒波に襲われるなんて前代未聞かと。
しかも60数年振りの寒波を見事に引き当てるなんて。


病室のベッドの上で考えていた事がある。

ヴァルナを目指していた時、ブルガス方面との分岐路があり、地図を広げ、どちらへ進むべきか、ものすごく迷った。
そこからブルガス方面へ進めば、ヴァルナ経由でブルガスを目指すより、60キロもの距離を短縮する事ができた。

不運続きだったので、この時も「運」について考えた事を覚えている。
どちらへ進めば順調に、何事もなく、ブルガスへ辿り着けるかと。

迷った末にヴァルナ方面を選んだ。
ブルガス方面へ進めば山を越えないといけないし、ブルガリア通貨の手持ちも少なかったし、ヴァルナまで2日歩けば暖かいホステルが待っているという事が決め手となった。

とは言え、60キロもの距離を短縮できる事は大きい。歩けば1日半の距離なのだ。
ヴァルナ方面へ進むと決めたとは言え、後ろ髪を引かれるかのように、何度か後ろを振り返った。ああやっぱりと足を止めた。

雨、雪に打たれ、ずぶ濡れになって到着したヴァルナ。
その後も雪は降り続け、あっという間に街を白く染めた。
あの分岐でブルガス方面へ進んでいたら、雪上で悲惨な夜をすごしていたはず。

雨風をしのげる暖かいホステルのベッドの上で、賭けに勝ったと笑みを浮かべた。


そして、賭けに勝ったぼくは凍傷を負った。


あの分岐がターニングポイントだったかなと病室で考えた。
あの時ブルガス方面へ進んでいたらと。

でも今になって思う事は、あの時の2つに1つの賭け、2つに1つの道に必ずしも自分の望む答えが用意されているわけではないという事。バカラと違って勝ち負けは存在しないという事。
難なくブルガスへ辿り着けたかもしれないし、悪い人間に身包みを剥がされて無一文になっていたかもしれない、凍傷どころか事故に巻き込まれ、命を落としていたかもしれない。

そんな事を考えているうちに、今回の凍傷も必然的、運命的なもののように思えた。
今回の事に限らず、人生なんてそんなものなのではないかと。

もちろん凍傷など負わない方がいいに決まっている。
でもあそこにハンティングクラブがなければ、躊躇していたぼくに病院へ行く事を勧めてくれる人がいなければ、病院まで送ってくれる人がいなければ。
挙げていけばキリがないけど、やはり運が良かったのだ。

呪われているのではないかと悲観的になった事もあるけど、ロシアで羊飼いに襲われ、ウクライナでジプシーに荷物を盗まれ、モルドバ、ルーマニアでもちょこちょこトラブルに見舞われ、ブルガリアで凍傷を負いながらも歩き続ける事ができるぼくは間違いなく運がいい。