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ALKINIST -あるきにすと- 独房にて

独房にて 

住宿#36

それがこの宿の名前なのかは知らない。
そもそもこの宿に名前があるのかさえ分からない。

周囲には同じように#34だとか#40といった看板を掲げた宿が密集している。
名前ではなく、番号で表す様はまさに囚人のよう。


いや、違った。


囚人はここで寝泊りする人間の方がふさわしい。

狭い部屋、窓もなく頼りない電球が灯りをともす薄暗い室内。
空調設備なんてもちろんなく、室内で吐く息は真っ白。寒いのでシュラフの中で体を丸める。
幾人もの寝汗が染み付いた枕と布団は清潔とは言い難く、いいダシが出せそうな程、香ばしい色に変色している。
部屋にはもちろん宿自体にシャワーはないが、なぜか各部屋にテレビはある。

まさに独房。

幸いなことに身の自由はあるが、なぜか鍵を持たせてもらえない。
ちょっぴり太目で貫禄のある看守(おばちゃん)は、部屋に入りたい時は私を呼べと言う。

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「俺は客だ、鍵をよこせ」なんて間違っても言ってはいけない。
模範囚にならねば。

ただ、今これを書いている目の前におばちゃんがいるから言うわけではないけれど、正直なところこの宿は嫌いではない。
設備に関しては値段相応ではあるし、鍵の不自由は何とかしてほしいものの、これくらいの方が落ち着いてしまうのだ。

また、細い路地に食堂、宿などが軒を連ねる周囲の風景に懐かしさを覚える。
どこで見た風景だろうか、どこでこのような路地を歩いたのだろうかと、頑張って思い出そうとするが、答えは見つからず。
ただ、宿を含め、自分にとって居心地がいい場所だというのは間違いない。

これからおばちゃんに鍵を開けてもらって部屋に戻るわけだが、「謝謝」とお礼を言えばいつも、ニコッと渾身の笑みを返してくれる。
そしてその度に思ってしまう。
たまにはこんな独房生活もいいかもしれないと。


そして翌日。

待ちに待った出所日。
荷物を整理し、昨日の汗を残したままのボサボサな髪で、宿の入り口へ向かうも、外は雨。

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独房生活延長。
天候には逆らえないけど、歩きたくても歩けないことがもどかしい。