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ALKINIST -あるきにすと- 川を越えて

川を越えて 

前回の続き

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カナダへと至る橋の手前には徒歩による通行を禁止する標識が立てられていた。

「歩いて橋を渡っちゃダメなの?」
「ダメだ」

そう言えば前日、BORDER PATOROLから職務質問を受けた際、国境の橋について尋ねてみたところ、
「橋は狭いからタクシーで橋を渡れ」というのが彼の答えだった。
それはきっと橋の歩道が狭いという事なのだと勝手に解釈していたけれど、そんなものじゃなくまさか歩行自体が禁じられているとは思ってもいなかった。

対岸はもうカナダなのに、ここまで何日もかけて必死に歩いてきたのに、カナダを目の前にしながら歩いて橋を渡る事ができないなんて。

普通の橋ならまだしも、国境に架かる橋。
一旅行者の都合で簡単に規則が覆るなんて微塵も思わないけど、ここまで歩いてきた事など彼に説明する。
橋を渡れないにしても可能性がわずかでもある限り、それに賭けるしかない。
料金所の職員は「ちょっと待って」とどこかへ電話をかけ始めた。


その間、そんなものに全く期待はせず、これからどうするかを地図で確認。
さらに西に位置する国境も同じく橋を渡らなければならない。
しかも高速道路なので間違いなく歩けないだろう。
東にある国境はアメリカと陸続きでつながっているので徒歩での越境には問題ないはずだが、またそこまで行くのに時間や労力を使う事になる。
何より気力。ここからカナダへ入国するつもりでいたのに迂回せざるを得ないなんて本当に気が滅入る。うんざりだ。

次の一手を考えながら、どうしたものかと歩行を禁止する標識を眺めていると、一つの疑問が湧いてきた。
「イクスキューズミー」と料金所の窓を叩き、職員に尋ねてみる。


「あのー、もしも、もしもですよ。この橋を歩いて渡っちゃったらポリスとかボーダーパトロールの人達が捕まえに来ますかね?」


そもそもぼくはこの料金所をイミグレ関係の建物だと思い、立ち寄ったのだけど、もしもここに立ち寄る事なく橋を歩いて渡ったとしたらどうなるのかと気になったわけです。
この料金所の職員に橋を歩いて渡ろうとする人間を拘束する権限はなさそうだし、もしも歩いて渡ったらどうなるのかなって。


職員は「ノー」と言った。
「誰も捕まえに来ないよ」と。


その瞬間、思わずニヤッとしたのかも知れません。
口に出さないにしても、「歩いて渡ってもいいかしら」と、そんな表情をしていたに違いない。
彼の電話の結果も結局聞かなかったけど、もしかしたらゴーサインが出ていたのかもしれない。

彼はウインクをして「行けよ」と言った。
「行っちゃえよ」と言った。
行っちゃう事にした。

「左側に歩道があるからそこを歩く様に。気を付けてな」

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最後にそんな言葉をかけられ、料金所を後にしたのだった。


国境を越える時、いつもなら歩いてきた国、去りゆく国での日々を振り返りながら、静かに別れを告げるのだけど、そんな感傷に浸っている余裕など全くなく、料金所の職員は「誰も捕まえに来ない」と言ったけど、背後から追っ手が来ないかとビクビクしながら、いつも以上に速い胸の鼓動、心臓をバッコンバッコンさせながら歩いていく。

さらには左側に設置されていた狭い歩道。

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あまりに狭すぎて両輪を歩道上において歩くことはできず、片輪を大きな段差のある車道に落とし、リヤカーを傾かせながら歩く。
車道に落とした側の車輪のすぐ側には溝があり、そこにはまらせないよう注意深く、慎重に歩いていく。まあ1度はまりましたけど。

決して多くはない交通量。
しかし片側1車線、ギリギリ車が擦れ違える程度の幅でしかない橋の上。
時折真横を通過する大型車にも神経を使う。

さらには橋上で工事が行われていて、交通規制もあったりしたのだが、そこは作業員の計らいもあり何とか通過。
その際、「ここはアメリカかカナダか?」と尋ねたのだが、この橋上はアメリカ領らしく、橋を渡った先、対岸がカナダだと教えられた。

背後からの追っ手に斜めに傾いたリヤカー、大型車に交通規制。
神経をすり減らしながらの越境。

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2キロ弱のこの橋を30分かけて渡りきれば、川を越えればそこはカナダ。
目の前にありながら一時は辿り着く事さえ危ぶまれたカナダの地を何とか踏む事ができたのでした。

あー疲れた。