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ALKINIST -あるきにすと- 予感

予感 

予感や直感、些細な心境の変化など、自分のアンテナがそういう何らかのものを感じたならそれは大事にしたいと思っている。


新しいタイヤを装着、歩行を再開してから1時間経った頃だった。
前方30メートルに熊が現れた。
こちらに気付いた熊は立ち上がり、両手を上げた。
親愛の印を示すとか求婚行動とかそんなものではなく、敵意をむき出しにした威嚇。
熊に威嚇されるとか初めての事で「すげえ威嚇してるよ」と感動しているうちに熊はあっという間に道路を横断し森の中に消えていった。


やはりこの辺りも熊が多いのだと思い、熊を探しながら歩行を続けた。
道脇に何かが見えた。5メートルほど通り過ぎたけど引き返してみる。
やはりそこには熊がいた。
寝てるのかなと思い、棒でツンツンしてみたけど反応なし。

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死んでいた。


これまで鹿の轢死体は10頭以上見たけれど、さすがに熊の死体は初めて。
「カナダではよくある事」なんて書こうと思ったけど、バンクーバーのクリスは「さすがによくはないよ、驚いた」だって。カナダでもめったにない事らしい。

死因は不明。
道路脇だったけど、路上に血があったわけではないので車との接触とは必ずしも言えない。強烈な死臭もなく、虫もわいていなかったので最近絶命したものと思われる。


歩行終了後、いつもの様にテントを張っていると、テントポールが折れた。その直後フライシートのポールも折れた。
めったに折れる事のないポール、同日に2本のポールが折れるなんて初めての事。


熊に威嚇され、息絶えた熊を見て、さらにはテントポール、フライシートのポールが相次いで折れた。
バンクーバーが目前に迫り、事故や熊には気を付けようと思ってはいたけど、とてもとても嫌な予感がした。


無事に迎えた翌朝。
1時間ほど歩いたところにガソリンスタンドがあって、コーヒーでも飲もうかと立ち寄った。
店前にリヤカーを停めたところ、「昨日も歩いているところを見た」と給油中だった女性に話しかけられ、「米国の東海岸から歩いてるんです」と説明するも、なんか様子がおかしい。
「そんな事知ってるわ」みたいな事を言って、「チャドアンドローラ」と彼女は続けた。


チャドアンドローラと言われ、ようやく気が付いた。

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どこで夜を明かそうかと思い歩いていた雨の日の夕方、

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救いの手を差し伸べてくれたのがチャド、ローラ夫妻だった。

この時チャドはいなかったけど、目の前にいたのは間違いなくローラだった。
彼らとであったのはもう1ヶ月も前の事、エドモントン近郊に住む彼女がなぜ800キロも離れたここにいるのか尋ねると、BCにあるチャドの実家に子供達と行ってきたのだと彼女は言った。


予期せぬ再会にとにかく驚いたけど、非常に嬉しい再会でもあった。
今日はいい日になるに違いないと、そんな気がした。


確かにそんな気がしたけど、まあ結局は昼食をとった所にベアスプレーを置き忘れ、往復1時間、5キロのロスをするというアホな事をしてしまったとさ。