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ALKINIST -あるきにすと- カンガルー島の歩き方 4

カンガルー島の歩き方 4 



8日目。

歩行開始後すぐにコアラを発見。足を止めて30分観察。
カンガルー島での歩行中、コアラに遭遇する事6回。
本土では見る事のできなかった念願の野生コアラ。嬉しいのは嬉しいけど、これだけ野生のコアラに遭遇すれば感動は薄れてしまう。


手つかずの自然や野生動物を求めて訪れたカンガルー島だが、最も嬉しい出会いはコアラでもカンガルーでもアシカでもなくやはり人だった。

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教えられた目印を曲がり、1.5キロもの距離がある私道をひたすら歩く。

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広大な敷地内を歩き続ける事20分、ようやく現れた1軒の家。
「ワンワン」と犬が吠えて出迎えてくれた。
そして家から出てきたロニが「ウェルカム」と一言。

そう、ここは前々日、灯台で声をかけてくれ、お世話になったロニ、キャサリン夫婦の家。
灯台を出た後、進行方向が彼らの家の方だったので、「もしよければ寄りなさい」と言ってくれていたのだった。
当初は彼の営んでいるファームを見学させていただき、すぐに出るつもりだったけど、結局お世話になる事3泊、灯台のコテージも合わせ、カンガルー島で計4泊彼らと過ごした。

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カンガルー島での残りの行程を全て中止してまで彼らの家で3日も過ごしたのは、彼らの家が大好きで、とても居心地良くて、そして何より彼らの事が大好きだったから。
細かくは書かないけど、ここで過ごした3日間から多くの事を学んだ。
それに比べたらオーストラリアで最も美しい海岸とかアシカや砂丘、灯台なんてどうでもよかった。

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家に着くなり、まずは家を案内された。
これはトイレ。
大きな窓があるけど、「誰も周りにいないからノープロブレム」とロニ。

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トイレの本棚には1970年代から今月号まで数え切れないくらいのNational Geographicがズラリと並ぶ。


ぼくはある一冊のNational Geographicを探した。
自分が生まれる前の一冊を探した。


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見つかった!


「植村さん、こんにちは」


犬ぞりを操り、人類史上初の北極点単独行に成功した植村直己。
1978年、日本人としては初めてNational Geographicの表紙を飾ったのでした。



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この家は30年前にロニが一人で建てたらしい。
ぼくはこの家が大好きだった。

広大な敷地内には大きな菜園があってたくさんの野菜や果物を育てていて、庭(もはや庭と呼べるレベルの広さではないけど)では鶏が草をつつきながら歩いている。
これらの野菜、鶏の卵、あるいは鶏肉は彼らの食卓に並ぶ。
自分で建てた家に自給自足に近い生活は北の国からの五郎さんの様でもあった。
でも電気はあるし、パソコンもあるし、WiFiもあるし、特に不自由はせず。


彼らは同じくロニが建てたというもう1軒の家を持っていて、現在はコテージとして多くの観光客を迎えているのだけど、写真を見せていただけば内装、外装共に素晴らしいデザインで、大変感動、感服したのでした。
めったに人の才能を褒める事などないけど、ロニは素晴らしい才能の持ち主だった。

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夜はロニが野生動物ツアーに連れて行ってくれた。

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コアラにカンガルー、ワラビーなど、どれも夜行性動物。
この夜目にしたカンガルー、ワラビーは予想以上の数だった。
カンガルー島の人口は4400人、コアラは40000頭でカンガルー・ワラビーは数え切れないらしい。

もともとコアラはこの島に生息していなかったけど、白人がこの島に持ち込んでからはどんどんとその数を増やしているらしい。
本土ではなかなか目にする事のできないコアラだけど、この島でコアラを見つけるのは難しい事ではない。あまりに数が増えすぎたため、現在ではコアラを捕獲し去勢や避妊手術をしているとの事。

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ロニの家の前の木に普通にいるくらいなんで相当多いんだろう。

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壁には家族の写真がたくさん飾られていた。

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若き日のロニ。
ラクダを連れて旅をしたり、1970年代のインド、ネパール、東南アジアを夫婦で旅したり、彼らもまた旅行好きな人達だった。

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「ラクダはいくらでした?」
「野生のラクダを捕まえたからお金はかかっていない」



お茶を飲みながら、彼らとのんびりと話す時間が大好きだった。



「昔は冷戦の影響で中国やソ連に入国する事ができなかった」
「家族への連絡は手紙で・・・」



今の時代しか旅していない自分にとっては彼らの旅した時代をうらやましく思えた。
願わくば30年以上前の時代を歩いてみたいけど、そんな事無理なわけで。
色々なものが発達し、便利になった現代ではあるけど、その反面、失われたものは確実に存在する。



「カンガルー島にやって来た30年前と今、この島は変わりましたか?」

そう尋ねてみると、

「携帯電話やインターネットの普及があったくらいで、島自体は何も変わらない」

とロニ。



2週間ばかり滞在しただけ、特に縁があるわけでもないカンガルー島だけど、何かと変化の多い激動の時代の中、色々なものが失われていく中で、「何も変わらない」というその言葉が無性に嬉しく思えた。