ブックマーク
ALKINIST -あるきにすと- Azezo

Azezo 

国境の町メテマではリヤカーを引いているわけでもないのに歩いているだけで突き刺すような視線を感じた。
メインストリートにはバーが並び、男達は昼間から競うようにビール瓶を何本も空けている。
何かと縛りの多いイスラム国と違って開放的。悪く言えば猥雑な雰囲気。
エチオピア人はフレンドリーに声をかけてくれるのだけど、隙を見せてはいけないと直感した。気を抜けばあっという間にやられてしまうだろう。アフリカは甘くない。

イスラムの人の優しさを知っていたから北アフリカのイスラム圏ではあまり不安を感じていなかった。
エジプトもスーダンもアフリカ大陸に位置するとはいえアラブ圏であり、エチオピアからが本当のアフリカなのだと個人的には考えている。

DSC_4181_R.jpg

エチオピアはとにかく子供が多い。
未就学児に「ユーユー」と声をかけられるのは、バカにされているような、なめられてる気がして苦笑いしてしまう。

「ワッツユアネーム」と名前を訊かれることもある。
エジプトでも子供達の知っている数少ない英語がこの言葉で何十回も尋ねられた。
お前らが名前を知ってどうするのだといつも思う。

これくらいならまだいいが連日何度も「マネーマネー」と言われるのは良い気分ではない。
きつい上り坂を歩いている時は子供の相手をするだけの余裕がなくて、後ろをついてこられるのも声をかけられるのも嫌なのだけど、そんな時に「マネーマネー」と子供がしつこく手を差し出してきた時は無意識のうちに睨み返していた。
子供達のパワーに圧倒され、ギラギラとした視線を浴び続ければ、日を追うごとに精神的な余裕がなくなっていくのがよく分かる。


「マネーマネー」と欲望むき出しの子供達がいる国。
大人が手を差し出してくる事もわずかながらあったが、欲望をうまくコントロールしているだけで密かに牙を剥くタイミングを窺っているのかもしれない。

そんな事を考えていたらどこにテントを張ればよいのか分からなくなった。
放牧や農作業に従事する人が広範囲に点在し、絶対に人目につかない場所というのがなかなか見つからない。子供に見つかろうものなら確実に面倒な事になってしまう。
こんなところでは慎重になりすぎるくらいがちょうどよい。

DSC_4302_R.jpg

色々と考えた結果、人目につかない場所を探すより、現地人の目の届く場所にテントを張って安全を確保するのがベストだという結論に達した。

DSC_4303_R.jpg

家の横にテントを張らせてもらったある日、ラーメンでも作ろうかとストーブを取り出していたところ、おばちゃんがやって来て「食べなさい」とインジェラを渡してくれた。
毎日の様に子供達が差し出す手を拒み続けているというのに、おばちゃんはそんな自分に手を差し伸べてくれた。

また別の日は搾りたてのミルクを飲ませてくれたり、「テントではなく家の中で眠りなよ」と気遣ってくれたり、結局この国でも現地の方の優しさに触れ、助けられる事が多い。


そんな平和な日々に亀裂が入ったのは食堂で昼食をとっていた時だった。
食堂のおばちゃんが外へ向かって何やら怒鳴りつけ、リヤカーを動かし始めた。
荷台に積んである荷物など、見た感じ何も問題なさそうだったが、何者かが荷物を狙っていたらしい。

DSC_4372_R.jpg

その後しばらくして鼻水を垂らした子供が持ってきたのがこのお守りだった。
彼あるいはその友人が盗ったのか定かではないけど、バックパックにつけていたお守りが引きちぎられていた。縁結びの神様を引きちぎるとはいい度胸をしているではないか。

被害はお守り一つだけ、しかも手元に戻ってきた。
しかし未遂とはいえ盗難に遭ったという事実はここ数日平和ボケしていた自分の目を覚まさせてくれるかのような衝撃があったのも確か。エチオピア入りした直後、隙を見せてはいけないと直感したのにそんな意識が薄れつつあった。

犯人はエチオピア人だけど、それを未然に防いだのもエチオピア人のおばちゃんだった。
それが唯一の救いというか、彼らを引き続き信じてみようと思うのだ。